「料理」を通してチームを作る
ダイバーシティの重要性が叫ばれている昨今において、チームの力動性に着目した研修は多い。
チームビルディングによって職場は効率性を上げるだけでなくイノベーションも手に入れ、より洗練された革新的なサービス・商品が社会に還元されていく。
それを日々実感するくらい「個」よりも「多」の力は大きいと思う。
しかし、エイミー・C・エドモンドソン(「チームが機能するとはどういうことか」, 2014)が述べるような今日の流動的な環境でよりよいチームを作るためにまず欠かせないのは、なによりチームビルディングをするための「土台作り」だろう。
すなわち組織をよりよくするための発言や主張を促し、積極的に引き出そうとする心理的に安全な場所だ。
この「土台」を固めるためにはまず利害関係に影響を受けない場を提供する必要がある。
その一つとして挙げられるのが「料理」だ。
「料理を完成する」という1つのプロジェクトに向かって、個人ではなくチームでよりよいものを作る努力をする。
今回は先日ご紹介した台湾のご当地グルメ魯肉飯(ルーローハン)のレシピを例にとって料理でチームの結束を高めるまでのフローとポイントをご紹介する。
まずプロジェクトとは本来期限が決められているものを指すので、料理の完成までに制限時間を設ける(材料や器具の完成から料理がテーブルにサーブされるまで3時間とするなど)。
1. ブレーンストーミングで必要な工程、必要な材料、道具を洗い出す。
ここでは米を研ぐ・肉を焼くなどの欠かせない工程に加え、「短時間で本場で何時間も煮込んだようなとろみと深みを出すにはどうすればよいか?」というような課題を解決するために片栗粉をまぶした玉ねぎを揚げ、煮込みの最後に加えるといったイノベーション的発見(裏ワザともいえる)も含まれる。
2. 次にWBSを設定し、最終成果物を反映する。
WBSとはWork Breakdown Structure(作業分解図)のことで
一つ一つの具体的な作業工程に期限と最終的に得られる成果物を設定する。
今回は
・30分間で近所の雑貨店で必要な鍋・玉杓子を購入する(最終成果物:鍋・玉杓子等)
・20分間で高粱酒等材料を調達する(最終成果物:高粱酒・豚バラブロック等)
・30分間で米の炊く、フライドオニオンを作成する(最終成果物:炊けた米等)など。
また1つの料理をできるだけ早く完成するには、可能な限り複数の工程を同時に進行させる必要もあるため各チームメンバーを個別にアサインするのも重要である
(米を炊いている間に、フライドオニオンを作り、鍋で肉を炒め水を加えて具材を煮込むなど)。
3. 実際に作業工程を進める
チームでプロジェクトを回すにあたって、プロジェクトマネージャーの役割を立て、設定した時間内で工程を終えられているかチェックを行う。
4. 省察を繰り返す
これは、
・作業工程内での省察(煮込むのに必要な水が足らないので、新たに加えるなど)
・作業工程間での省察(本来同時進行でできるはずの「米を炊く」のと「具材の煮込み」を行っていなかったため、米を炊いている間に具材が冷めてしまったなど)
が含まれる。
こうした一連のプロジェクトを効率的に回すためには、チームメンバーの自由な発言を受け入れ、またメンバーをそれぞれが得意とする分野にアサインする必要もある。
(料理を不得手とする人は買い出しを、包丁さばきが得意な人は具材を切ることを、どんな見栄えがよいかに知識が豊富な人は盛り付けを担当するといったように)
「料理を完成する」というプロジェクトを通して、チーム内で相互理解が生まれ、個を尊重したふるまいができ、集団としての組織力が向上する。
まとめると
1. 私たち全員が関わっている食事に関連している。
-食事をしたことのない人はいないし、誰しも食べ物に好き嫌いがあるくらい全員が一様に興味がある。
2. 利害関係に影響を受けず心理的な安全が保障されている。
-本来の仕事から距離を置いたものなので、発言しやすい環境である。
3. 適材適所を踏まえた人材配置ができる。
-全員が必要な工程をイメージしやすく、各作業に対して得手不得手がわかりやすい。
これら3つの点から「料理」は非常に適していると思われる。
職場のチームビルディングに苦慮している組織は、「料理」を研修の1つとして活用してみるのもよいかもしれない。
安藤